ハンドラー・ウォルターとは何者か? 第1助手説と息子説の比較

前置き  

 ここでは”ウォルター第1助手息子説”と”ウォルター第1助手説”の2つを私なりにまとめています。 というのも、作品の中の情報だけでは、どちらの説も甲乙つけ難いと考えている為です。 どちらの説を推すかはお任せします。

※説の比較という事で解釈や行間の補完が入っただけ説の確度が落ちるものと見なしています。

説によって情報の解釈が違うため色を変えて表記
ウォルター=第1助手息子説(以下 息子説)は赤色
ウォルター=第1助手説(以下 第1助手説)は青色


ハンドラー・ウォルターとはどういった人物なのか

 結論:善性を持った悪人

 ウォルターとは、目的の為に多数の犠牲をいとわない悪人である。 ウォルターの目的はアイビスの火の再現でコーラルを焼き尽くす事にある。 星系を巻き込んだ犠牲者の規模は過去作の中でも類を見ない。 他の方法は無かったのか等の疑問は残るが、ここでは語らない。
 物語の冒頭でウォルターは621に「再手術によって普通の暮らしを取り戻す事ができる」と言う。 解放者ルートでの終盤も同じ事を言っており、本心から出た言葉であると推察できる。 また、レイヴンの火ルートでは仕事を終えた621へ「お前を縛るものは何もない」とも言う。 それは本当だろうか?
 レイヴンの火はアイビスの火の再現。 コーラルが燃え尽きたとは限らない。 「解放者」と「レイヴンの火」は根本的な解決を描いていない。 それでもウォルターは621の自由を願っているのだ。
 621に対する姿勢を代償行為と見るか、本当の優しさだと捉えるかはプレイヤーに委ねられるだろう。


ルビコン調査技研

・調査技研所長 ナガイ教授
 コーラル研究の第一人者。ウォルターの語る”善良な科学者”と目される人物。 コーラルの破綻を予見し単独でアイビスの火を起こした。

・第1助手
 ウォルターの語る”ある科学者”と目される人物。 家族を捨てコーラルの研究に没頭し、強化人間に連なる狂った成果を生み出した。 STK遺構では精神混濁状態とされている。

・第2助手
 英語ではSheと表記される。玩具を作るのが得意。 コーラルを観測し続ける業をナガイ教授の教え子として背負わされた。

・第1助手の妻
 「研究は彼(第1助手の息子)の母親を奪い」の一文でのみ登場。 コーラルの研究による犠牲者と思われる。

・第1助手の息子
 寡黙で気丈な鉄のような少年。目の奥に光(Boy's sharper than he looks)  アイビスの火を逃げ延び木星へと逃れたと思われる。

・画家STK
 アイビスの火に巻き込まれ死亡したとされる画家。 本編より半世紀前の巨匠。画風はSTVに似る。


情報ログの解釈

この辺りから息子説第1助手説で解釈の違いは起こってくる。

文書データ:ナガイ教授の口述筆記(1)

残骸から抜き取った文書データ
ルビコン調査技研所長 ナガイ教授の口述筆記が
散逸したものと思われる
----------------
コーラルは自己増殖する生体物質であり
その増殖速度は個体群密度の影響を受ける

例えば真空状態
これは蜜度を最大化する理想的環境のひとつと言える

重要なのは密度効果による
「相変異」の兆候を見逃さないことだ

それは人類には制御できない破綻となる
第1助手の様子がおかしい
明らかに研究に取り憑かれている

Cパルスで人間の知覚を増幅するなど
理屈は通っていても許されるものではない

可能性が人を狂わせる
コーラルはその最たるものだ
第1助手の子息をラボで引き取ることにした
寡黙で気丈な 鉄のような少年だ

研究は彼の母親を奪い 父親を狂わせた
私を恨んでも良いだろうに…

第2助手の力も借りることにしよう
あれは玩具を作るのが得意だったはず

少年が笑ってくれると良いが

 息子説では第1助手の人物像は狂った科学者と解釈する。
 根拠は口述筆記2にあり、コーラルの可能性に着目し非人道的な実験に手を染めた人物だと読み解く。 第1世代型強化人間手術の成功率は1割にも満たない*1その所業は優しさを残したウォルターという人物像にそぐわない。
 また寡黙で気丈、鉄のようだと評される少年の描写が、目的遂行のために意志を貫くウォルターの人物像と重なると考える。

息子説への反論(クリックで展開)
 特に反論すべき点は見当たらない。
しいて言えばウォルター自身が非人道的な行いを”する”人物であるという点だろうか。

 第1助手説でも第1助手がコーラルの研究で非人道的実験とその成果を為したとする評は変わらない。
 しかし、第1助手を最初から研究に取り憑かれた狂人であると断じていない。 「私を恨んでも良いだろうに…」という言葉は「母親を奪い、父親を狂わせた」原因がナガイ教授にあることを示しており、 第1助手が狂うに値する出来事が技研の研究室であったと解釈する。

第1助手説への反論(クリックで展開)
 第1助手=ウォルターとする為に第1助手の人格を好意的に解釈しすぎている。
ナガイの台詞はコーラル研究の責任者としてのものであり他意はない。

画像データ:STKの遺構

アイビスの火に巻き込まれ死亡したとされる
半世紀前の巨匠「STK」の遺構
その作風はAI画家たちに取り込まれ そして消えていった
----------------
STKメモ
・教授 2人の助手 少年

・助手1 精神混濁 少年 目の奥に光

 息子説ではSTK遺構は「アイビスの火」直前に描かれたものだとする。 この時、第1助手は精神に異常をきたしており、到底アイビスの火を生き延びる事はできないものと思われる。
 少年の瞳は、コーラル根絶を使命とした意志の現れだと読み解く。 後に木星へと逃れ観測者とコンタクトを取り、その使命は半世紀もの歳月を経て本編へと受け継がれる。

息子説への反論(クリックで展開)
 アイビスの火はナガイ教授が単独で起こしたものであり、第2助手や第1助手の息子を逃がすだけの時間はあった。
その上で第1助手だけ死んだと確定することはできない。

 第1助手説では、STK遺構は口述筆記3の息子がラボに引き取られた時期だとする。
 第1助手の精神混濁はコーラルの実験によるものだと推測できる。 ラミーやドーザー、621のように強いコーラルを浴びた者は精神混濁状態へと陥るが、一定の刺激で復帰することも描かれている。

第1助手説への反論(クリックで展開)
 少年の描写とSTVのカーラであろう人物への描写が無意味になってしまう。

ウォルターの台詞

仕事の前に ひとつ昔話をしよう

ある科学者がいた
家族を捨てコーラルの研究に没頭した男だ
狂った成果が山ほど生み出された
強化人間もそのひとつだ

善良な科学者もいた
男の罪を肩代わりし 全てに火を点け…
そして満足して死んだ

…この話には教訓がある
一度生まれたものは そう簡単には死なない

621
昔話は終わりだ 仕事を始めるぞ

 息子説では、この昔話は第1助手たる父親とナガイ教授を語っているものとする。 父親のしでかした事の清算をするのだという、改めての決意表明となる。

 第1助手説では自身の事とナガイ教授の事を語っているものとする。  ”肩代わり”して火を点け、満足して死んだ”とは、第1助手が「アイビスの火」時点で死亡していない事を示している


ウォルターとミシガンの関係

いつ以来だ ハンドラー・ウォルター!
貴様の猟犬にはクソほど煮え湯を飲まされた
よくも抜け抜けと連絡してこれたな

 息子説ではウォルターがミシガンと知り合ったのは木星だとされる。 その根拠はアイビスの火の独白で少年が木星まで逃げ延びたであろう事が語られている部分だ。 ミシガンは木星戦争の英雄であり、ルビコン3以前に知り合っているのなら木星が妥当だろう。

 第1助手説でも木星でミシガンと出会ったとする。 ハンドラーとして独立傭兵を使い荒事をしている中で知り合ったのだろう。
 問題があるとすれば木星へ行った動機だが、来たるべき破綻の時に向けて地力をつけていたと考えるのが妥当だろう。 解放戦線の実質的指導者ミドル・フラットウェルも星外企業に潜伏している。 死亡しているとは言え旧型の強化人間を617~621の5名所有しており、ヴェスパーが8名、レッドガンが7名と考えると個人としては最大の規模だ。


観測者「オーバーシアー」の使命と動機

 観測者の使命はコーラルの破綻が訪れる前にコーラルを焼き払う事にある。

 息子説ではウォルターの動機には強い使命感が存在する。
 コーラルとは母親を奪い父親を狂わせた元凶の物質である。 その根絶を目的とし、犠牲を厭わない姿勢は鉄のようだとされた少年のそれだ。 ナガイ教授の望んだ”友人”は、少年にとって犠牲となった観測者たちであり、その遺志を継ぐ者がハンドラー・ウォルターである

 第1助手説では代償がその動機となっている。
 半世紀を経て善良な科学者に代わって火を点ける、家族のように621の平穏を願う。 それらは全て過去の清算であり、その善性にすら見える代償行為こそがハンドラー・ウォルターという人物である。


アイビスの火から逃れ観測者となるまで

 息子説ではほぼ確実に木星へ逃れたであろうことが「映像記録:アイビスの火」で確認できる。
 如何にして観測者と出会ったのかは想像に任される。

息子説への反論(クリックで展開)
 技研にいたのは少年期である為、技研に関する知識の多くは観測者によって教え込まれた事になる。 平穏な暮らしを望まれた先の木星で「決して表には出ない組織」に接触しなければならない。 ハンドラーとしての手腕など、見事な戦争屋に育て上げられた事になる。

 第1助手説では善良な科学者の罪の肩代わりによって”第1助手は死んでいない”と推測する事ができる。
 観測者たちとの接触を想像で補うしかないのは息子説と同じである。

第1助手説への反論(クリックで展開)
口述筆記5で「頼れるのはもはや第2助手しかいない」と言われている為、第1助手は観測者ではない。 その上で精神混濁から回復し観測者と接触しなければならない。


最終安全弁HALへの搭乗

 息子説ではHALは初見でありその搭乗には訓練を要する。 強化人間手術にはリスクが伴い、コーラル代替強化手術も多大な犠牲を払ってアーキバスで運用されているに過ぎない。

 第1助手説ではコーラルの技術者であるという事を鑑みるとHALへの登場はむしろ想定されていたものと思われる。 それが”許されていたか”を抜きにすれば、ナガイ教授に次ぐ搭乗者としては最も適性が高い。

ーーー

年齢

息子説 遺構10~19才、50年後の本編60~69才
第1助手説 遺構30~39才、50年後の本編80~89才

アイビスの火以前から傭兵をしているスッラや、青年期にコーラルを浴びていたドルマヤンが元気にACを動かしている。 少年の年齢も幅をとったが、おもちゃを与えられる年齢と考えればもっと若いかもしれない。

まとめ

 息子説の強さは第1助手と違い生存が裏付けられている点にある。 第1助手の強さは技研に関する知識(特にHALの搭乗)である。 この「技研に関する知識」について、前述では敢えて触れていない考察がある。 「第2助手=カーラ説」である。

「第2助手=カーラ」だった時、どういった事が想定されるか?
 まず息子説ウォルターの技研に関する知識の問題が解消される。 しかし同時に第1助手の生存確率がぐっと上がってしまう。 なので結論としては以下のような説の確度順になると思われる。

息子説>第1助手説>第1助手説+第2助手=カーラ説>息子説+第2助手=カーラ説

補足
 本項では「第2助手=カーラ説」を否定はしていません
 説の比較となった時に複数の考察を掛け合わせると確度の保証ができないため、敢えて最低限の解釈で考察を構築しています。 よって第2助手=カーラだったとしてもウォルターが何者であれ説としては成り立つと思っています。

ひとりごと
 STKとSTVの既視感の描写からSTK=STVだったら第1助手生存確率が更に上がる。 ウォルターの置き土産のザイレムはアイビスの火以前に入植している(OP)ので、 カーラが第2助手でウォルターが息子だと言い方に違和感が残る。 第2助手=カーラであり息子=ウォルターであった場合、 ナガイ教授が平穏無事を願って逃がした少年を捕まえたカーラ率いる秘密組織という図式ができあがる。 畜生すぎて人の心とかないんか? と思ってしまう。

 画稿の描写として2回も息子の描写をした挙句に「本編には登場しません」というのも違和感がある。 前作主人公的な立ち位置の真レイヴンや木星で平和に暮らした少年なども思いつくがしっくりは来ない。

改めての結論
 ウォルターというキャラクターをどのような人間と考えるかで どちらの説を推すか決まるような気がする。 贖罪と後悔なら第1助手、使命なら息子。どちらの説を選んでも正解でもないし不正解でもない。

 621 お前が決めろ


以下、必要そうな1次情報

文書データ:ナガイ教授の口述筆記(4)

残骸から抜き取った文書データ
ルビコン調査技研所長 ナガイ教授の口述筆記が
散逸したものと思われる
----------------
まずい
コーラル潮位が異常な速度で上昇している

この共振は相変異の…
計算しろ 猶予は?

47時間2分16秒

間に合う
アイビスを出せ!
文書データ:ナガイ教授の口述筆記(5)

残骸から抜き取った文書データ
ルビコン調査技研所長 ナガイ教授の口述筆記が
散逸したものと思われる
----------------
技研もルビコンも壊滅は避けられない
問題はそのあとだ

変異波形発生の兆候も見られる
観測を続けなければ

頼れるのはもはや第2助手しかいない
私にできるのは 教え子に業を背負わせることだけだ…
映像記録:アイビスの火

残骸から抜き取った映像記録
ルビコン調査技研所長 ナガイ教授の独白と思しき
音声が含まれている
----------------
残り12分
やるべきことは全てやった

アイビスの火を見届けるのは私ひとりで良い

あの少年は強く生きていけるだろうか

木星には友人もいる
きっと良くしてくれるだろう
シンダー・カーラの台詞

ビジター 昔話をしようか

アイビスの火が この惑星を焼き尽くしたあと…
決して表には出ない ある組織が作られた
観測者たちの結社「オーバーシアー」
コーラルの増殖傾向を計り
「破綻」が訪れる前に… 焼き払う
それが使命だ

私やウォルター…
そして死んでいった「友人」たちのね
RaDは退屈しない隠れ蓑だったが
いよいよ本来の仕事をする時が来たってわけさ

本題に入ろうか

あんたもザイレムには行ったことがあるだろう
技研の作った洋上都市だ
あそこには来たるべき破綻への備えとして
ちょっとした機能が隠されている
そいつが今の状況には必要なのさ

RaDの技術者が総がかりで
ザイレムのコントロールを奪いに行く

あんたにはしゃしゃり出てくるに違いない
アーキバスの相手を任せたい
…よく持ちこたえたね ビジター
この都市の…
本当の姿 見せてやろうじゃないか…!
…あいつが残していった情報が役に立ったよ
恒星間入植船「ザイレム」
ウォルターの置き土産さ

*1:スッラのテキスト