王と獣
獣集いの鎧 (中略) 獣は英雄に惹かれ、王に惹かれる 故にこれは、王たる英雄の鎧であり ベルナールはそれに相応しかった (後略)
獣は英雄に惹かれ、王に惹かれる。この観点から登場人物たちを見ていくと唐突だと思われていた描写にも一定の法則を見出せる。
ゴッドフレイ
王と獣の関係性を最も端的に、かつ網羅しているのが最初の王ゴッドフレイである。
ゴッドフレイの肖像 (中略) ゴッドフレイは、猛き戦士であった けれど、王となるを誓ったとき 沸々と滾り続ける戦意を抑えるため 宰相の獣、セローシュを背負ったのだ
ゴッドフレイは滾る戦意を抑えるために宰相の獣セローシュを背負った。そしてセローシュを降ろした時、彼は戦士ホーラ・ルーを名乗る。獣を断つことで王たるを止め、一介の戦士となったのだ。
ゴッドフレイとセローシュの関係を整理してみよう。
- 黄金の鬣と黒き爪の獣王セローシュは、後にゴッドフレイの宰相となった。
- 獣と王は元々別個体である。
- 宰相となったセローシュは、ゴッドフレイと半ば一体化している。
- 獣と王は一体化することも、独立して動くこともできる。
- セローシュを背負うと、ゴッドフレイの滾り続ける戦意は抑えられた。
- 獣は王と一体化したとき、王は人格に影響を受ける。
王と獣の関係で留意したいのは、獣が王に惹かれるという自主性だ。この自主性は好意にも悪意にもなるということを意味している。王が獣から受ける影響も良い事ばかりではないということだ。
ライカード
略奪のカメオ (中略) ライカードが背律の冒涜を誓ったとき あらゆる略奪は肯定された 神自身がそうであるように
褪せ人よ、あの槍を振るい、刺し貫いてくれ 大蛇を…、あの忌まわしい化け物を… …かつて、ライカード様の冒涜の野心は、覇王の雄心であった だが、その身を大蛇に喰らわせてから、それは下卑きった貪欲に堕したのだ あれはもう、ライカード様ではない …殺さねばならぬ あのお方の名を、野心を、これ以上辱めないためにも
法務官ライカードは最も強く獣に影響を受けたひとりだ。
略奪のカメオにほのめかされているように、ライカードの冒涜は黄金樹の成り立ちに倣っていると思われる。それを踏まえれば獣と一体化した王に心当たりはないだろうか?
ライカードは大蛇にその身を喰らわせる以前、覇王の雄心を持った人物であった。法務官とは秩序の番人であり、ゲルミアの古い呪術を魔術として蘇らせるなど、理知的で人望もあったようだ。そして蛇と一体化したことによって下卑きった貪欲に堕落する。ライカードは蛇に喰われる以前、確かに英雄であったのだろう。タニスはむしろ蛇と一体化したライカードをこそ好いていたようだが、それはまた別の話。
写し身の雫、王を創らんとした遺物
写し身の雫の遺灰 (中略) 召喚者の姿を模倣し、戦う霊体 ただし、その意志までは模倣できない 永遠の都が、王を創らんとした遺物である
写し身は王の模造品である。しろがね人が写し身の雫に連なる人工生物であることは疑う余地はない。王と獣の関係性を考えた時、王の模造品という性質はしろがね人にも見出すことができる。しろがねの射手と狼、ガイウスと猪。しろがね人の宿痾を助けたのはいつも動物たちであった。
- ラティナ:ロボ
- しろがねの射手:狼
- ガイウス:猪
- ローレッタ:馬
英雄と獣
王と獣、英雄と獣、作中で見られる英雄たちと獣の関係をできるだけ列挙してみよう。
マリカ=ラダゴン:エルデの獣
ラスボスとして対峙する黄金律、ラダゴンはエルデの獣そのものであると言える。だが元々は別の存在であったとも考えられる。ミケラとトリーナのように2つの意思が同居することはありうるのだ。諸説はともかく、王と獣という枠組みにはしっかりと当てはまる。
ラダゴン:ラダゴンの赤狼
英雄ラダゴンに懐いた赤狼
女王マリカ:影従マリケス
マリカは二本指から影従マリケスを与えられている。マリケスはマリカに裏切られてなお、忠義を尽くしている。
ラニ:影従ブライヴ
二本指からラニに与えられた影従ブライヴ。ラニが二本指を拒んだ時、災いとなる者。その逃れられぬ運命に抗った獣。赤目のブライヴは唯一「狼の襲撃」で冷たい魔力を扱い、かつ獣誘いの壺に反応する。
ラダーン:痩せ馬
腐敗に苛まれてもなお、痩せ馬はラダーンの巨体を支えている。
ライカード:ゲルミアの老蛇
ライカードを喰らった蛇。喰らうことで家族になる。タニスもまた喰らうこと選んだ。理解しがたいが、それもまた愛情表現のひとつなのかもしれない。
ゴッドウィン:死竜フォルサクス
竜が獣かどうかは異論もあるだろうが、英雄ゴッドウィンがフォルサクスを友としたことに変わりはない。フォルサクスは死王子となった後もゴッドウィンの内で死に抗い続けた。
ヴァイク:ランサクス
最も王に近づいた者、円卓の騎士ヴァイク。ヴァイクはランサクスの寵愛を受け赤い雷を纏う。
ゴドリック:接がれた飛竜
「…共に末裔たる竜よ」ゴドリックは飛竜を接ぐ。飛竜はすでに死んでおり、ゴドリックを慕っていたか定かではない。ゴドリックを悪く言わないのはモーゴットくらいである。
メスメル:邪な蛇&有翼の蛇
メスメルには邪な蛇が巣食っており、またメスメルの友としてあるのは有翼の蛇。影の城で黄金カバを飼っているなんて噂もある。
マレニア:なしor腐敗の眷属?
マレニアには該当する獣がいない。強いて言うならば一方的に崇める腐敗の眷属たちだろうか。マレニアはミケラの刃を自称しているため、王の器ではないのかもしれない。
宵眼の女王:バルグラム
バルグラムは神人の影従たらんとした狼の戦鬼
プラキドサクス:?
ファルム・アズラは霊廟となっており、そこに暮らすのは獣人たち。
カーリアの女王:狼
レナラは盟約の友を召喚する。4匹の狼、猟犬騎士、トロル、竜。
モーゴットとモーグには該当する獣が居ない。角人たちの文化によれば混じり角≒忌み角を持つ者は霊性が高いとされる。文字通り「王の器」としての適性は高いはずだが…これについては端的な結論は出ていない。
主人公たる褪せ人の獣とは…?
結論:トレント
獣は王に惹かれる。漂着墓地で褪せ人を見出したのはトレントである。メリナは懐疑的ですぐに円卓に導くことはしなかった。それでもトレントは最初から信じていたと言う。エルデンリングは王となる英雄が獣と出会うところから始まっていると言える。そして最後はラダゴンとエルデの獣で締めくくられる。唐突だと思えたエルデの獣との邂逅。王と獣という法則に従えば、対峙は必然だったのかもしれない。
ゴッドフレイは「力こそ王の故」と言ったが、王たる者は獣に惹かれてこそなのだ。ラダーンの王たる資質はその優しさにこそあったのかもしれない。褪せ人と同じ馬(獣)を駆るラダーンこそ、最大の敵役として相応しい。ミケラの王は、果たしてどうだったろうか。
Noメリナ
発売前からずっと…ずっとメリナと契約せずに王になるための道を模索してきた。何故そのルートが用意されていないのか、ようやく腑に落ちた。トレントと出会わない王は有り得ないのだ。